宮崎駿版「君たちはどう生きるか」ネタバレ考察② 裏面の世界と、王道の教養小説

無意識を描くのは難しいですよね。夢の中の話のような感じ。

村上春樹もインタビューで書いていました。彼は、大枠だけ作って小説を書いていくという。今回の宮崎駿も同じように、どんな話にするのか決めないで作っていったようです。

※今回はなんとなくです・ます調で書いています。

前回のまとめ

前回は、ユング的な無意識/意識の構造について。現代の村上春樹的な内面世界へ向かう冒険活劇の構造について。そして、自分の精神の裏面である「サギ男」について書きました。

「君たちはどう生きるか」は全然説明もないので、なかなかに解釈も難しい作品だと思います。

ですが、内面世界に向かっていく構造なんてのは、ここ二十年ぐらいどの漫画でもやるようになったので、理解はできると思います。そして、内面世界には裏面、ダークサイドの自分がいるんですよね。お決まりです。BLEACHも、NARUTOも、そんな話です。そして決まってそのダークサイドは主人公をつぶしにかかってくるんですね。

ここ二十年ぐらいの漫画の進歩はすごいですね。ユング的な内面との対立、アイデンティティの確立について描けている。それまでの漫画などより、レベルが格段に上がったんですね。読み手のわれわれも、相当リテラシーが上がっているようです。

それは置いておいて、次は異世界の構造について述べたいと思います。

異世界とは、属性の反転した世界(裏面の世界)

 まず、異世界は何なのか。

 これは、いろいろな言われ方をしています。「地獄」であり、「人間として生まれる前のワラワラがいる場所」であり、「生者よりも死者が多く」、「下」にある世界であるようです。まあ、設定もたぶん決まってないと思いますので、この世界の裏側だと思うとよいのではないでしょうか。理の外にある世界。

 

 そして、前提として異世界の人物は、現実世界に対比されているようです。主人公がキリコの島でそんなようなことを言っていました。異世界に行くと、姿が変わると考えればよいのでしょうか。

 現実世界と異世界を対応させていきましょう。

 現実(表)     -        異世界(裏)       

 主人公の真人(真実) –        サギ男 (ウソ)

 母(火で死亡。火は敵。) -      ヒミ (火で生きる。火は味方)

 老キリコ (老い、頼りにならない) -  若キリコ  (若い・頼りになる)

 夏子  (虚勢・地獄)      -   夏子(本音・救い)

 

見ての通り、異世界に侵入すると、属性が反転していきます。主人公と、その裏面のサギ男だけは、あまり変わらずに、異世界へ行けるんですね。すでに分裂してしまったからでしょうか。

 ですが、大体において主人公はそういうものです。選ばれたものであるし、自分の精神世界でもあるからです。これも村上春樹と一緒。村上春樹作品でも、強固な自我をもった自分だけは、世界がいかに変容しようともついていけます。ですが、他の登場人物はついていけずに行方不明になってしまいます。自分のための物語というのは、そういうものなんです。

 属性の反転。これを受けると、主人公は意識は深まります。なぜか。われわれは日常で、他者を理解したつもりになっていても、一面しか見ていないからである。

 夏子さんは。死んだ姉の代わりに新しい妻となり、結婚し、子供を作る。昔はそんなこと当たり前であった。どの世界でも、ありえたものでした。なぜなら血を絶やさないことが重要であったし、結婚できなければ、貧困で死んでしまう女性がいたのだから。結婚は女性にとっての救いなのです。映画館から出るときに「気持ち悪かった」と語っている人がいたが、そう感じるのもその通り。だが、姉妹で同じ人と結婚することなんて、それは数千年間、人類が続けてきた常識なのだ。われわれは知って、そのうえで気持ち悪がるべきです。

主人公の鬱屈した思い

主人公の真人は、夏子のおなかに手をあてたとき、おそらく気持ち悪さから顔をそむけました。でも、それは当時の常識で「感じてはいけないこと」でした。母が死んで、次にその妹が新しい母になることは、当時としては、「正しいこと」だから。

でも、主人公の気持ちは止まりません。

母はなんだったのか?

母が死んだあと、父はなんですぐ子供を作れるのか?

そっくりならだれでもいいのか?

女性は子供を産む道具なのか?

夏子さんは、母の代用品でよいのか?

そして母の面影をもつ美しい人に感じてしまうエロス。(光源氏以来の伝統)

主人公はこの悶々とした問いかけのすべてにフタをしました。父を信じ、新しい母も認めなければいけない。男として、格好悪い姿は見せられません。

心のフタは隠し事となりました。それは、ストレスとなって無意識に限界をもたらします。ストレスから、サギ男が誕生し、異世界への道ができてしまいました。

そして冒険の途中で知ります。自分のことで精いっぱいだった主人公の真人は、ようやく気付きます。一番つらいのは夏子さんじゃないのか?

夏子さんの地獄

夏子さんの抱える地獄は相当なもんです。さすがに近代で、学歴もありそうな方なので、夏子さんも姉妹婚の気持ち悪さは感じているはずでしょう。

代用品である気持ち悪さ。

・代用品として抱かれる気持ち悪さ。

・代用品としてきたら、その息子の真人とうまくいかないこと。

・富豪の嫁としての重圧。

・つわり、そして初出産の不安。

夏子さんのその苦しみを理解してやれたのか? できていないじゃないか。自分の子どもっぽい悩みばかりで、冷たい態度をとってしまった。また、大きな傷を作って不安にさせた。そして、それが原因で夏子さんは消えたのかもしれない。

異世界は、おそらく集合的無意識の世界。自分の内面世界をたどって、たどりついた相手の精神に触れます。深層心理の夏子さんから「嫌いだった」と言われる。まるで日本神話のイザナミのように、地の底で鬼の形相をして。それは夏子さんの本音であり、もう一つの面。異世界は属性のもう一面が見れるので、「新しい母」として飾って無理して頑張っていた表面がはがれ、醜い本音が出てきてしまいました。

その本音を受け止め、それでも救うと決めました。本来なら、一番つらいのは夏子さんなのだから、最初に会ったときから、彼女がストレスを感じないように支えてあげるべき立場だったのです。それが自分の役割だったのに、子供っぽさで台無しにしてしまった。。。

教養小説とは(ビルドゥングスロマン)

他者の苦しみを知り、自分本位の世界から離れること。甘い世界からの脱却。それが大人になるための条件です。これは教養小説の一番の根幹。宮崎駿さんのどうしても伝えたいことの一つなのでしょう。これが大テーマの一つのようです。

だからこそ最後での、「この頭の傷は悪意があります」のシーンが泣けました。過ちを認めるときもまっすぐで美しい。深く突き刺さりました。

あれは、正しく生きてきた自分自身を裏切ったこと。そして、夏子さんの心を傷つけたことを指しているのでしょう。それは弱かったから。弱さを認めることこそが、強さですね。

属性の反転と大テーマについてはこんなもんで。次回は、できたら、理想の世界と、主人公の父についても書いてみたいと思います。

書く気力があったら、またよろしくお願いします。

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